港区 税理士法人 大沢会計
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2016年6月

2016/06/30

H28.6.30

平成29年は買取価格決定方式を見直し 個人売電収入の所得区分

平成29年度からは「入札制度」など導入
 日本の太陽光発電は、補助金制度や余剰電力買取制度の復活(平成21年)、平成24年7月の固定価格買取制度(FIT)の導入で急速に普及してきました。その後、平成26年の「九電ショック」(太陽光発電に適した九州・北海道などで送電網が限界に達したため、新規接続申込が保留された騒動)で冷や水を浴びせられましたが、平成29年度以降は、買取価格の決定方式の見直し(「入札制度」と「価格低減スケジュール」導入)をはかり、更なる普及を目指しています。
FIT導入後の太陽光発電の買取実績(億円)
(固定価格買取制度 情報公開用サイト)

      H24年度 H25年度 H26年度 H27年度
住宅用
10kw未満   1,049  2,148  2,486  2,173
事業用
10kw以上   75    1,769   5,486  7,549

個人売電収入の所得区分は買取制度で区別
 現行の売電(買電)制度には、①全量買取制度(発電した電気を全て売電。発電容量10kW以上が対象)と②余剰電力買取制度(発電して余った電気だけを売電)の2つがあります。住宅用の場合の発電容量の平均が4.5kW前後であるため主に「余剰電力買取制度」が利用されています。
 なお、個人の売電収入の所得区分は、買取制度に応じて、次のように区分されます。

               余剰電力買取         全量買取
①自宅(住宅)に設置 雑(20万円以下は申告不要) 事業又は雑
②店舗併用住宅に設置 事業(メーターが一つの場合:事業付随収入) 同上
③賃貸アパートに設置 不動産(共用部分で使用) 同上

「グリーン投資税制」は対象資産確認を!
 その他の税務のポイントは次のとおりです。①発電設備は耐用年数17年で償却します。ただし、自宅使用(余剰電力買取)の場合には、自家消費分があるため、売電対応分の割合(売電量/発電量)で按分する必要があります(店舗併用住宅では、さらに事業使用按分が必要)。②国庫補助金の総収入金額不算入制度や「グリーン投資税制」の適用の余地があります。「グリーン投資税制」は年度により制度が変わるため、適用対象資産をよく確認する必要があります(不動産所得には不適用な点にも要注意)。

H28.6.29

民間の労災保険 使用者賠償責任保険

使用者賠償責任保険の契約者が増えている
 使用者賠償責任保険は労災認定された事案について、企業の安全配慮義務等を問われ法律上の損害賠償責任を負った場合に備えるものです。
 近年はうつ病等による労災認定件数の増加、賠償額の高額化を背景に大手損害保険会社グループでも2015年の契約件数は前年度比率1.5倍となっています。この傾向は今後も続くと予想されます。

今後重要視される使用者責任保険
 労働基準法では業務災害で従業員が病気やけがを負った場合、会社は必要な補償を行わなくてはなりません。その為労災保険に加入し、従業員が業務災害を負った補償は労災保険から給付を受けます。労災保険から給付される事で会社は従業員に対する補償義務を免れる事ができます。
 しかし損害賠償責任を負った時、例えば死亡事故等の場合は遺族が会社に対し損害賠償請求を求める事があります。「使用者賠償責任保険」は労災保険給付を上回る補償の提供や和解金の支払いの為に利用する事ができます。ですから労災上乗せ保険と呼ぶこともあります。
 使用者賠償責任保険とは転ばぬ先の杖的役割と言えるでしょう。
 労災保険から従業員に保険給付がされた場合、治療費、休業補償、遺族補償がありますが、慰謝料などは給付されません。労災保険から労働基準法に定められた金額が給付されたとしても、会社の安全配慮義務違反が問われると労災保険とは別に民事上の損害賠償を求められることがあり、最近は損害賠償額も高額傾向にあり、1億円を超える事もすくなくありません。

リスクを考え検討を
 中小企業の場合、多額の賠償金を支払う事は経営の危機を伴う事も想定されます。業務災害はどの企業にも起こりうる危険性をはらんでいるとも言えます。但し、保険に加入すればリスクヘッジにはなりますが保険料がかかります。保険料は定額のものから業種、雇用形態、企業規模で違っている保険もあります。これまでの労働災害の発生状況等も考え、費用と効果を勘案して加入を検討することが良いでしょう。

H28.6.28

合同会社の活用法

 企業が創造的な開発業務を行なう場合で、自社が保有する技術を補完するため、外部の企業、専門人材を集めてプロジェクトチームを編成する必要がある時、専門人材が自由にコミュニケーションを行ない、合意形成を図りつつ成果物を開発する組織運営が不可欠です。
 しかし、現実には労働法上のコンプライアンス確保を図るため、労働局の指導による大きな制約があります。

対応策は合同会社(LLC)の活用
 その制約を回避する現実的な対応策は、図示したように合同会社(LLC)を活用して、プロジェクトチームを編成することです。
①合同会社(LLC)には、会社法で「定款自治」が認められており、定款で図のような意思決定方法を定め、社員総会で組織運用について決定し、プロジェクトチーム活動を推進する。
②労働法上のコンプライアンス確保を証明するため(合同会社内部で指揮命令関係が存在しないことを証明するため)、合同会社(LLC)内部の定期的な会議、主なミーティングの記録を作成し、代表社員と業務執行社員が署名・捺印する。

[合同会社によるプロジェクトチーム運用]
[本体企業、または行政官庁]
・合同会社(LLC)代表社員、業務執行者選任、業務委託契約
↓           ↑
業務委託:      完成物納入・委
○○の開発     託料金支払い
↓           (工事進行基準)
            ↓
[合同会社(LLC)]
1.定款作成:下記2項目を定款に記載
① 事業目的は:○○の開発(成果物○○の完成)
② 業務執行(相対的記載事項):社員相互の自由なコミュニケーションと合意形成により成果物を開発し、それを重視した代表社員による意思決定
2.外部専門人材と業務委託契約、合同
 会社(LLC)設立登記・代表社員・
執行社員就任
3.合同会社(LLC)の組織運用
・社員総会で組織運用規則として「社員
間の自由なコミュニケーションと合意
形成による効率的な業務遂行」を決定
↑                ↓
業務委託契約と同時に   業務委託料支
合同会社(LLC)業務    払い(工事進
執行社員として登記     行基準)
↓                ↓
外部専門人材(企業・個人事業主)

経営者の留意点
 このような場合、担当者の判断が難しく、経営者の決断と方向付けが必要と言えます。

H28.6.27

どっちが優先?遺言と遺産分割協議書

年々増える遺言作成件数
 相続・遺言に対する関心は年々高まっており、平成26年1月~12月に全国の公証役場で作成された遺言(公正証書遺言)は10年前から約4万件も増加し、ついに10万件を超えました。家庭裁判所で扱われた遺産分割事件も同様に増加傾向にあり、こうした背景も影響していることがうかがえます。故人の遺志をできるかぎり尊重したいものですが、遺言を書いたときと相続時では家族の状況が変わってしまうということもあります。では、遺言の内容と異なる遺産の分割をすることは可能なのでしょうか。

遺言と違う遺産分割は可能?
 相続人の間で遺産分割の方法を話し合うことを遺産分割協議と言い、その結果を書面にしたものが遺産分割協議書です。
 判例では、①遺言によって遺産分割協議が禁止されている場合、②遺言執行者が選任されている場合を除き、遺言と異なる内容の遺産分割協議をすることは事実上認められています。実際、遺言と異なる遺産分割の方法を協議することは珍しくありません。
 しかし、だからと言って全て遺産分割協議書が遺言に優先する、という意味ではありません。遺言の内容によっては注意が必要です。

遺産分割の方法が指定された遺言
 過去、最高裁では、特定の財産を特定の相続人に相続させる内容の遺言の場合、遺言者の死亡によって、財産は直ちに確定的に相続人に帰属するとした判決が行われました(平成3年4月19日最高裁判決)。「特定の財産を特定の人に相続させる内容」とは、たとえば「長男○○に埼玉県××の土地を相続させる」というのがこれにあたります。この場合、その後に行った遺産分割は本来の意味での「遺産分割」ではなく、相続人間の取引として財産が移転するものとされています。
 その結果、不動産の相続登記を行う際、遺産分割協議の結果をすぐさま登記できず、まずは「遺言に基づく登記」をした後、「相続人間の取引の登記」の二段階で申請しなければならないなど、相続事務に支障をきたすことがあります。こうなると手続き費用も手間も二重にかかってしまいますので、注意が必要です。

H28.6.24

消費税軽減税率の支払時意思表示制度

消費税軽減税率導入は増税延長でも確定
 今年の税制改正では、10%増税の施行時期はともかく、その増税時には食料品と新聞とに8%の軽減税率が導入されるとの法規化がありました。

仏英加の軽減税率とドーナツ・クラブ
 海外では、消費税に軽減税率があるのは普通です。フランスでは、標準税率20%に対して、外食サービス等7%、食料品等5.5%、新聞・医療品等 2.1% と3種類の軽減税率があります。
 イギリスは、標準税率20%に対して、家庭用燃料・電力等7%、食料・水道・新聞雑誌・国内旅客輸送・医療品等は0%です。0%は仕入税額控除ができるので非課税ではありません。なお、販売時点で気温より高い温度の食料品は外食サービス品として、またケーキ・ビスケット以外の菓子類は贅沢品として、標準税率が適用されます。
 カナダでは、標準税率5%に対して、食材・農産品・処方箋薬・医療機器等は0%です。なお、その場ですぐに食べるかどうかが食材か否かの判定基準でもあり、ドーナツについては、販売個数が少ない5個以下だと、その場で食べる「外食」とみなして標準税率を適用し、6個以上だと持ち帰り食材としてゼロ税率を適用します。そのため、即席の「ドーナツ・クラブ」が作られ、共同購入するのだ、というのは知られた話になっています。

コンビニのチンは外食か
 今年の改正税法令を見ると、イギリスに似て、加熱を伴う飲食料品の提供は軽減税率の対象外なので、コンビニでチンして受け取る弁当などは外食扱いになる可能性があります。食堂で食べる場合でも、学食は外食扱い、学校給食は特定の場所での選択肢のない全員強制のものなので軽減税率適用、老人ホームの食堂も非外食扱いです。

レジで持ち帰りと言えば軽減税率
 今年の通常国会での税制改正論議では、ドーナツ・クラブと似て、持ち帰りの意思表示があれば、顧客が実際にどこで食べたかということは追求せず、軽減税率の適用をするので、その場で食べても不足額を追徴することはないとか、ペットフードであっても人間も食べられるものなら軽減税率の対象になるとか、の議論の中で、安倍総理が、「ペット用のセサミンを家内に渡したら、ずっとそれを飲んでいた」との答弁をしたようで、議事録にも載っていました。

H28.6.23

取締役と会社の利益相反取引

取締役と利益相反取引
 買い物をするとき、消費者であればできるだけ安く購入したいと考え、販売者であればできるだけ高く売りたいと考えますね。このように、お互いの利益が対立する状態を「利益相反」と言います。利益相反は、立場が違う者同士に関係が生じれば自然と発生しうるもので、これは取締役と会社の関係であっても同様です。では、本来会社に利益をもたらすべき取締役が、会社と取引をすることに問題はないのでしょうか。
 取締役は会社に対し忠実に職務を行う義務を負っておりますので、会社の利益を犠牲にして自分や第三者の利益を図るような取引は認められません。会社法ではこのような利益相反取引を規制しており、客観的に利益相反にあたる取引を行う場合には会社(取締役会または株主総会)の承認を得なければならず、この承認を得ずに行った取引は原則として無効になると解されています。利益相反取引にあたるかどうかは、公正な条件の取引かどうかではなく、利害対立が起きうる関係であれば一律に利益相反とされますので、事前の承認を得なければならない場面は思っている以上に多いものです。

利益相反取引の具体例
 たとえば、古くなった社用車を取締役個人の名義に変えるという場合は会社から社長への譲渡取引になりますが、本来であれば売却価値のあるものを、無償又は廉価で譲渡することにより会社が損害を受ける可能性があるため、利益相反取引になります。
 また、取締役個人が持っている不動産や株式を会社名義に変えたいという場合も、無償譲渡でない限り利益相反取引になります。一見すると会社にとって有利に思われる低廉な価格での譲渡であっても、会社に支払いや負担がある以上、会社の利益を害する可能性があるため、承認が必要になるのです。

迷ったときには事前の承認を
 利益相反取引を規制する趣旨は会社の利益保護にあります。よって、会社に不利益を与える可能性のない取引、たとえば取締役が会社に対し、金銭を無利息・無担保で貸し付けるといった場合は、会社に不利益を与えるものではないため、利益相反取引にはあたりません。なかなか難しい判断ですので、利益相反取引になるかどうか迷った場合には、事前に会社の承認を得ておいた方がよいでしょう。

H28.6.22

等級差の判定法

 役割等級制度を導入する場合、役割定義を行ない、等級差を検討しますが、その際の実務的な判定法について解説致します。

等級間に重要な差を見出すには
 等級差の判定は以下の実務手順により、行ないますが、最も困難なのは、手順④の等級間の重要な差の判定です。
①職種別・階層別「基準職務」の選定。
②「基準職務」を構成する「課業」(分業・分担が可能なまとまり仕事)について成果責任・権限・必要な職務遂行能力等を調査し、整理統合して基準職務の「役割定義」を検討。
③「基準職務」の「役割定義」を基に、上下に実在する全職務の実態に合わせて変化させ、全職務の「役割定義」を検討。
④全職務の「役割定義」を相互に比較し、重要な差を判定して等級付けを検討。

等級差判定のポイント
 等級差は、「その職務が何故その等級なのか」を経営者から一般社員までの各層から見て理解、納得できるよう「役割定義」に示さなければなりません。一般的には成果責任の違いが等級差判定のポイントで、典型例は次の通りです。
[役割定義のポイント・典型例]
「管理職3」を基準職務として、手順③④により、等級差を判定した例。
階層    役割定義のポイント
      成果責任   権限
管理職1  ・部の営業目標達成 部の営業予算
(部長職)            部組織の統轄

管理職2  重要な特定営業目標 プロジェクト
(専門職) 達成による部の営業 チーム予算
      目標達成貢献    プロジェクト
        チームの統轄

管理職3  ・課の営業目標達成 課の営業予算
(課長職)     課組織の統轄

一般社員1 ・○○地区営業目標 下級者の指導
       達成
中略
一般社員5 年間・月別売上実績
      表の作成
 本例は「管理職2」の成果責任・権限等の重要性から、「管理職1」と「管理職3」の中間位置付けが適当と判定した例です。なお、職務遂行能力は省略してありますが、重要性・困難性の判定要素となります。

H28.6.21

ディラン、クラプトン、パープルが来日
来日芸能人の消費税課税方式の見直し

来日芸能人の消費税課税方式の見直し
 2016年は往年のロック・レジェンドの来日が目白押しです。
 この4月以降に来日の主な外国人アーチストは次のような方々です。
〔2016年4月以降の来日アーチスト〕
4/4~4/28  BOB DYLAN
4/12~4/15 BRIAN WILSON(The Beach Boys)
4/13~4/19 ERIC CLAPTON
5/9~5/18  DEEP PURPLE
 彼らの来日に合わせて…という訳ではないのですが、日本では4月1日より国外事業者が行う芸能・スポーツ等に係る消費税の課税方式が見直されています。

国外芸能人の芸能活動は「特定役務の提供」
 国外事業者が国内において対価を得て行う他の事業者に対して行う次の行為は、「特定役務の提供」と位置付けられました。
① 芸能人として行う映画撮影、テレビ出演
② 俳優、音楽家として行う演劇、演奏
③ スポーツ競技大会等への出場
 これは、国外事業者が他の事業者に対して行うものですので、不特定多数の者に対して行う役務の提供は含まれません。

「特定役務の提供」はリバースチャージ
 国外事業者から「特定役務の提供」を受ける事業者は、「特定課税仕入れ」として、「リバースチャージ方式」により消費税の申告・納税を行うこととなりました。
 たとえば、日本のプロモーター(興行主)が日本国内で企画したコンサートに国外事業者に所属するアーチストを出演させる場合には、国外事業者が他の事業者(日本のプロモーター)に役務提供を行っているため、「特定役務の提供」に該当し、リバースチャージ方式により、日本のプロモーターに消費税の納税義務が生じます。

海外プロモーターの直接開催は非該当
 一方、日本のプロモーターが一切関与せず、海外のプロモーターが、日本の会場を借りて、直接、観客にチケットを販売して所属するアーチストのコンサートを行う場合には、「不特定多数の者に対して行う役務の提供」にあたるため、「特定役務の提供」には該当しません。この場合、従来通り、海外プロモーターに消費税の納税義務が生ずることになります。

H28.6.20

相続で誤りやすい事例 「未支給年金」は一時所得

公的年金の支給は「後払い」
 相続税の申告で誤りやすい事例の一つに、被相続人の「未支給年金」があります。
 年金は偶数月の15日に、前々月分と前月分の2か月分が支給されます。受給者が亡くなった場合、年金が「後払い」であるために、受け取る権利があっても受け取ることができない年金が必ず生じます。これを「未支給年金」といいます。
〔亡くなった時期と未支給年金の例〕
亡くなった時期    未支給年金
4月   支給日前   3か月分(2~4月分)
(偶数月)支給日後   1か月分(4月分)
5月(奇数月)     2か月分(4・5月分)

未支給年金は遺族の請求手続きが必要
 未支給年金は、遺族が被相続人に代ってもらうことができるのですが、年金事務所等に「請求」手続を行わないと支給されませんので、死亡の届出(支給停止手続)と一緒に手続きを済ませるとよいでしょう。
 支給を受けることができる遺族は、年金受給者が亡くなった時に、被相続人と生計を同じくしていた①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹、⑦その他これらの者以外の3親等内の親族で、未支給年金を受け取れる順位もこのとおりです。
 ただし、奇数月の中旬から次の年金支給日までの間に亡くなった場合には、金融機関の手続が進んでいるため、通常の支給日(15日)に、被相続人の口座に年金が入金されることがあります。

相続税の対象とならず、遺族の一時所得
 このようなお話をすると「未支給年金」(未支給年金請求権)は被相続人の相続税の課税財産として、相続税の課税対象となるように聞こえるかもしれませんが、相続税の課税財産とはなりません。
 これは、国民年金法等では、未支給年金を支給請求することのできる者の範囲や順位が、民法の相続とは異なったルールで決められており、その支給が遺族の生活保障を目的とするものであるため、「遺族の固有の権利」として請求するとして、相続性がないものとされているからです(「みなし相続財産」にも該当するものがありません)。
 そのため、未支給年金の支給を受けた遺族の「一時所得」に該当することとされています。

H28.6.17

その被害額は推定で3,800億円 シロアリは白くない!?

シロアリは白くもなく、アリでもない!?
 フランスの啓蒙哲学者ヴォルテールは、末期の神聖ローマ帝国を評して、「神聖ではなく、ローマ的でもなく、帝国でもない」と言い放ちました。まったくスケールの異なる話ですが、日本語でも「名は体を表していない」ものがあります。 
たとえば、「シロアリ」です。職蟻(働きアリ)は、確かに白っぽく、それが語源のようですが、よく見る日本産のヤマシロアリは黒色、イエシロアリは黄褐色ですので、白色とは限りません。
また、そもそもシロアリは「蟻」ではありません。ゴキブリ目・シロアリ科の昆虫です。ちなみに「アリ」は、ハチ目・スズメバチ上科・アリ科になります。
ただ、「蟻」という漢字は、地中に巣を作り、規則正しい共同生活を営むことから、「虫」編に「義(行儀正しい)」となったという説もあります。コロニーを形成し、高度な社会性をもった昆虫であるという意味では「シロアリ」もその範疇には入るのかもしれませんね。

シロアリによる被害は「雑損控除」の対象
 このシロアリによる被害は、所得税の「雑損控除」の対象となります。
 雑損控除の対象となるのは「災害」「盗難」「横領」の3つですので、どれに当たるのかな?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、予測がつきにくく偶発性が強いところから害虫による異常な「災害」と認識されています。そのため、シロアリの被害により居住用木造家屋の床下を取り替えたのであればその修理費用(原状回復費用)、駆除費用は被害の拡大を防止するため緊急に必要な措置を講ずるための支出に当たるため、「災害関連支出」として雑損控除の対象となります。

予防のための薬剤散布は対象外
 近所にシロアリが発生したことを聞いて、予防のために駆除会社に薬品散布をお願いするケースなどもあります。ただ、雑損控除という規定は、資産そのものについて生じた損失や災害に関連してやむを得ない支出をしたケースを想定しているため、将来災害が発生するかどうか不明な状態で、その被害発生を予測して予防的に支出する金額まで対象に含めていません。したがって、資産についての損失が生じておらず、予防的に支出する金額は雑損控除の対象とはなりません。

H28.6.16

軽減税率とインボイス

軽減税率対象品目及び税率
 今年の税制改正では、消費税の軽減税率導入の法規化がありました。
(1)対象品目は、①飲食料品(食品表示法に規定する食品(酒税法に規定する酒類を除く)で、外食サービスでの対象品を除きます。)、②定期購読契約が締結された週2回以上発行の新聞、です。
(2)軽減税率は、6.24%(地方消費税と合わせて8%)です。

10%増税は正式に延期が表明された
 サミットの場を利用した理由付けを経て、予想通り、正式に延期声明が出されました。
 しかし、軽減税率導入・インボイス制度導入の骨格は、今年の税制改正で固まっております。発せられた声明による延期は来年4月から施行予定の消費税率10%への増税についてであって、同じく来年4月から施行予定のインボイス制度導入については、必ずしも延期されるわけではありません。
 ワンセットで導入された軽減税率・インボイス制度のうち、インボイス制度のみは予定通りの施行かもしれません。

適格請求書発行事業者登録制度
 インボイスは改正税法では、適格請求書という新しい言葉で規定されています。
 マイナンバーとは別にインボイス登録番号が作られます。所轄税務署長に申請して審査を受けて登録番号を確保しなければインボイスは発行できず、逆に、登録番号を授与された者は、課税事業者選択届を提出したと同じことになり、その取消しの届け出をしない限り免税事業者に戻ることができません。

適格請求書等保存方式の創設
 インボイス番号のない請求書等には消費税額の記載が出来ず、取引相手は仕入税額控除が出来ないので、番号のない者は経済取引から排除されることになりそうです。
 適格請求書(インボイス)への偽り記載や誤認されそうな類似書類の発行は禁じられており、その他消費税法違反で罰金を科されると登録拒否・取消にされることになり、国外事業者だと国税の滞納があることだけで登録拒否・取消になります。

国税庁の最も強い要求
 国税庁は番号制度で経済取引への管理強化を実現し、違反・非協力事業者に対する生殺与奪の権限を得たようです。
番号制度が実現するなら増税延期も許容範囲、が国税庁の思惑と思われます。

H28.6.15

交際費はなぜ「措置法」なのか? バカヤロー解散と交際費

交際費はなぜ「措置法」規定なのか?
 法人税を勉強し始めると、「交際費は、なぜ租税特別措置法で規定されているのかしら?」と思う方が多いと思います。
 交際費課税については、賛否があるとはいえ、既に「恒久的なもの」と認知されているでしょう。それにもかかわらず、法人税「本法」でなく、「措置法」のままとなっているのは、この税制が成立したときの国会事情が少なからず影響しています。

当初は「法人税改正案」で提出されたが…
 故武田昌輔先生の『法人税回顧六〇年―企業会計との関係を検証する』(TKC出版)によれば、「交際費の損金不算入制度」は昭和28年度の税制改正案では法人税の本法の規定に盛り込まれていたそうです。
 当時は「企業の資本蓄積を大いにやりなさい」という議論が出始めた頃。特別償却制度や準備金制度が登場し、交際費についても「できる限り冗費を節約するように」と法案化されましたが、税制調査会などで全く審議がされずに、突如として話が沸いてきたものであったため、財界等の反発が激しかったようです。
 ただ、この法案を議論するはずであった国会(衆議院)は吉田茂首相の不規則発言により、3月14日に解散してしまいます(いわゆる「バカヤロー解散」)。そのため年度内に、交際費を含めた税制改正法案が成立せず、もう話を出す雰囲気ではなくなってしまったようです(少し前にも年度内に法案が通過しなかったことがありましたね)。

雰囲気が変わった「造船疑獄事件」
 翌年(昭和29年)になると、「造船疑獄事件」(海運・造船会社と政府・与党との間の贈収賄をめぐる疑獄事件)が発生します。
 この事件により、政界と花柳界との関わりが明らかにされていきます。野党も「交際費課税は強化すべきだ」と主張し、ムードが一変。ここぞとばかりに租税特別措置法案として「交際費の損金不算入」制度は国会を通過し、昭和29年度の税制改正で3年間の臨時措置として規定されました。
 武田先生の書籍では、これも「3年間だけ我慢して欲しい」という話であったようですが、本法に入れると「持たない」という判断があったようです。その後、交際費課税は、世情により強化されたり、緩和されたり、紆余曲折を経て現在の形になっています。

H28.6.14

賃金体系の選び方

 賃金体系は、職務役割等級制度等に基づいて決定され、社員の意欲を高める人事制度の中核に位置付けられます。
 そこで、自社の業種・活躍して欲しい人材に合った賃金体系を選択する必要があり、その判断基準を「職務の特性と適した賃金体系」として紹介させて頂きます。

職務特性と賃金体系
 一般に、職務の特性に適する賃金体系は以下の通りです。
[定型的職務群の賃金体系]
職務の特性        職務例      適する賃金体系
習熟度合によって、   ・仕上げ工    ・等級別単一職務給+
速度や正確性が異   ・店頭販売     習熟給(積上型or
なる職務群                   習熟ランク給)or範囲型職務給
 
着任時に完全な   ・自動車運転     単一職務給+経験加給
職務遂行能力が   ・建設機械運転  
求められる職務    ・薬剤士
郡            ・検査技師

・監督能力により   ・建設現場監督   ・単一職務(or職能)給+成果給
現場組織の成果が              ・職務給+幅の大きい
求められる職務郡                習熟給(orマイスター手当)   
                    
・高度技能による   ・レンズ研磨
成果が求められる  ・医療検査技師
職務群

[非定型職務群の賃金体系]
職務の特性      職務例         適する賃金体系
職務遂行方法が   企画・調査職      等級別範囲型職務給or
固定的でない                   等級別範囲職能給
職務群                   

専門職        専門技術職       等級別単一職務給+業績給
管理職        マネジメント職      役割等級別単一職務給+業績洗い替え給

経営者には、自社の賃金体系が適切か、チェック、見直しの検討をお勧め致します。

H28.6.13

「中部電力事件」で考える 有姿除却か?評価損か?

 火力発電所の有姿除却
 法人税の裁判で火力発電所の有姿除却(固定資産が物理的に廃棄されていない状態で税務上除却の処理を行うこと)が争われた「中部電力事件」というものがあります。これは、電力会社が電力供給過剰の状態となったため、法定耐用年数を経過した旧式火力発電所を、電気事業法の廃止手続をとった上で54億円の除却損を計上したところ、税務当局より「実際に解体済みであったものを除き、再使用の可能性がないと客観的に認められない」として否認されたため争いとなったものです。裁判所は、仮に多大な費用と時間をかけて、低効率な旧式の設備をわざわざ再稼働させる経済的な理由がない――いわば「経済的観点から再稼働することはなかろう」ということで会社が行った有姿除却処理を認めました。

有姿除却の要件
 法人税の通達では、次の固定資産については、たとえ廃棄していない状態でも「帳簿価額-処分見込価額」を除却損として損金計上できるものとしています。
① その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
② 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
 ただ、税務調査では、再稼働の余地があるかないかで意見が分かれることが多く、当時は非常に注目された裁判でした。

評価損の方が「法のハードル」は低いが…
 もし、会社が税務当局との意見の相違を避けるのであれば、「その資産が1年以上にわたり遊休状態にあること」を理由として固定資産の評価損を計上する余地がありました。確かに「評価損」の方が、外見上ハードルが低く、筋が良いようにも見えますが、問題はその「評価損」の額です。
評価損の額は、期末の「時価」との差額ですから、その算定に議論の余地がありそうな上に、有姿除却の場合の「除却損」(帳簿価額-処分見込価額)よりは大きな金額は見込めなかったのでしょう。有姿除却の方は法のハードルが高くても、認められれば、金額の争いは少ないと思われます。

H28.6.10

労働保険の年度更新 28年度のポイント

雇用保険料率は引き下げ
 労働保険料は前年の4月から今年の3月までに支払った賃金を基に昨年度(平成27年度)当初に概算で申告、納付していた保険料を今年度(平成28年度)の初めに精算します。この申告納付する事を年度更新と呼んでいます。今年度も申告書は5月末ころに事業所への申告書送付がスタートし、申告と納付は6月1日より7月11日までに行います。
 保険料は労災保険料と雇用保険料ですが、労災保険料率の変更はありません。雇用保険料率は新年度から引き下げられています。一般の事業1000分の11(前年度1000分の13.5)、農林水産・清酒製造の事業1000分の13(前年度15.5)、建設の事業1000分の14(前年度1000分の16.5)です。

法人番号の記載が必要になる
 労働保険の申告書用紙の様式が変更され「法人番号欄」記載欄が追加されています。法人番号とは国税庁から通知された13桁の番号でこれを記入します。1法人につき1つ割り当てられるもので支店や事業所においても同じ番号を記載します。個人事業主の場合は13桁全てに「0」を記入しておきます。

建設の事業は消費税の取り扱いに注意
 建設の事業で労務費率により、保険料の算定基礎となる賃金総額を算出する場合、前年度中に終了した事業については事業の開始時期により消費税率にかかる暫定措置適用の有無が異なっています。詳しくは年度更新のリーフレットに記載されています。また厚労省HPでも確認できます。

熊本・大分における地震被害に伴い、労働保険料等の納付猶予を受ける場合
 今年の4月に熊本・大分県を中心に発生した地震により、事業経営の為に直接必要な財産(事業財産)に相当の損失(概ね20%以上)を受けた事業主は「納付猶予申請書」および「被災証明書」を提出する事により一定期間納付の猶予を受ける事ができます。
 この申請は年度更新申告書の提出とともに行う事も可能です。但し、被災額が申告書提出までに確定しない時は災害が止んだ日から2ヶ月以内に行えます。
 詳細は厚労省HPでも確認ができます。

H28.6.9

H28より高収入の給与所得者を直撃 給与所得控除の上限額引下げ

 ビジ スにもあてはまる「80対20の法則」      
 「80対20の法則」――経営者の方はよく耳にするのではないでしょうか。経済現象や社会現象において、全体の数値の大部分(おおむね80%)は全体を構成するうちの一部分(おおむね20%)が生み出しているという理論です。「パレートの法則」「ばらつきの法則」などともよばれています。
 ビジネスでは次のような事例が、「80対20の法則」の一例として挙げられます。
・売上の8割が、
上位2割の顧客で構成されている
・商品在庫の8割が、
全商品銘柄の2割で構成されている
・仕事の成果の8割が、
投下時間の2割の時間で創出されている
 このような発想は、累計の上位からAランク(70~80%)、Bランク(80~90%)、Cランク(90~100%)に分類して数値管理を行うABC分析等に活かされています。

1,000万円超の給与所得者が税の1/2を負担
 税金の負担の話でも、これと同じようなことが言えます。国税庁の公表している「民間給与実態統計調査」(平成26年度)によれば、給与階級別の給与所得者・税額は次のとおりになっています。
〔給与階級別の所得者数・税額(H26)〕
給与収入 人数構成 税額構成
400万以下 58.2% 11.4%
800万以下 33.3% 27.2%
1,000万以下 4.3% 12.3%
1,000万超 4.2% 49.1%
 給与収入1,000万円を超える方々は、人数構成は4.2%にすぎませんが、その方たちで給与所得者の税額のなんと約半分を納めていることになります。

給与所得控除の上限額の引下げ(H28~)
 近年の個人課税は富裕者層の課税を強化しており、上の「所得税の約半分を納めている層」の方々の給与所得控除の上限が段階的に引下げられることになりました。
〔給与所得控除の上限額引下げ〕
所得税 改正前 H28 H29
給与収入 1,500万 1,200万 1,000万
控除上限 245万 230万 220万
(個人住民税はH29・H30年度から適用)
 また、給与所得控除の上限の引下げに伴い、給与所得の源泉徴収税額表(月額表、日額表)、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表その他も見直しが図られています。

H28.6.8

平成28年度キャリアアップ助成

キャリアアップ助成金とは
 有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(正社員待遇を受けていない無期雇用労働者を含む。以下「有期契約労働者等」と言う)へ企業内でのキャリアアップ等を促進する為、一定の取り組みを実施した事業主に対して助成するもので、有期契約労働者等を次の様な雇用をすることで助成されます。
 新年度より3つのコースになりました。

正社員化コース
 有期契約労働者等を正社員雇用、多様な正社員等に転換又は直接雇用した場合に助成されます。(中小企業の場合の額)
ア、有期⇒正規 1人当たり 60万円
イ、有期⇒無期 1人当たり 30万円
ウ、無期⇒正規 1人当たり 30万円
エ、有期⇒多様 1人当たり 40万円
オ、無期⇒多様 1人当たり 10万円
カ、多様⇒正規 1人当たり 20万円
※ 多様な正社員とは勤務地・職務限定、短時間正社員を指します。
 また、加算額もあります。
・派遣労働者を正規雇用
 上記ア、ウは1人当たり 30万円
   エ、オは1人当たり 15万円
・勤務地職務限定制度規定した企業10万円

人材育成コース
 有期契約労働者等に職業訓練を行った時。
・賃金助成 1時間当たり 800円
・経費助成 一般職業訓練(off-JT)
 有期実習型訓練(ジョブカード活用)
             最大30万円
 中長期キャリア形成訓練 最大50万円

処遇改善コース
 有期契約労働者等にいずれかの取り組みを行った場合。
ア、全て又は一部の人の基本給の賃金テーブルを改定し2%以上増額させた場合
 全てを改定…3万円~10万円×人数
 一部を改定…1.5万円~15万円×人数
 職務評価手法の活用で1事業所20万円加算
イ、共通処遇推進制度
 法定外の健康診断制度を新たに規定し、延べ4人以上実施…1事業所当たり 40万円
 共通の賃金テーブル導入・適用…1事業所当たり 60万円
ウ、短時間労働者の週所定労働時間を25時間未満から30時間以上に延長し社会保険を適用した場合…1人当たり 20万円

H28.6.7

貢献度重視のマネジメント

 役割等級制度では、役割に伴う成果責任等を定義し、その実績の経営貢献度を評価して、給与、その他の処遇を決定します。
 この貢献度評価の考え方、方法は、社員のやる気に大きな影響がありますので、よく検討して設計・運用することが必要です。

貢献度評価の先行モデル
 貢献度評価と運用のあるべき姿を説明するために、近年の実例を先行モデルとして紹介させて頂きます。
①外資系、インターネット関連事業をグローバルに展開する企業のチーム目標達成に対する業績貢献度を評価する「貢献マネジメント」。
②狙いは以下の3点
 ⅰ)チーム業績重視
 ⅱ)チームでの振り返り促進、真摯なフィードバックから社員同士で学びあう
 ⅲ)相互のフィードバックに基づき、チーム全体への貢献度を総意で決定
③目標設定において
 チームとしての大きな目的・目標を達成することやチームヘの貢献度を重視し、社員は、上位方針、同じ部署、プロジェクトチームメンバーの中で設定した目標が「チームとしての大きな目標、それぞれの等級に期待される役割」に応じたものかを互いに確認の上で目標を設定。
④設定した業績目標達成時やプロジェクト終了時に、一緒に仕事をしたメンバーとともに振り返りを実施し、お互いの貢献度についてフィードバック、各自の貢献度を自己評価(4段階・絶対評価)。
⑤年間の業績評価は④の社員の自己評価と各社員の360度フィードバック結果をインプット情報として、上司が4段階の絶対評価。
⑥さらに本部単位で、同一等級毎に相対評価、最終的な貢献度評価(4段階)を決定。

「貢献マネジメント」の特色
 この「貢献マネジメント」の特色は、次の点にあります。
①通常の個人業績・目標達成度評価ではなく個人の業績が如何にチーム業績・部門業績に貢献したか、に焦点をあてている。
②目標設定の段階からチームとしての目標達成・チームへの貢献を重視している。
③チームメンバー相互の真摯なフィードバックと自己評価が、被評価者の納得性を高めている。

経営者・管理者の留意点
 「貢献マネジメント」から学び、自社の目標管理制度、評価制度を見直すことをお勧め致します。

H28.6.6

後を絶たない相続トラブル 親の預金の使い込み

平成27年の成年後見人の不正件数
 高齢者の方、中でも認知症になった親御さんの財産管理は、ご親族にとって悩ましい問題です。この問題を解決するために設けられたはずの「成年後見制度」ですが、着服などのトラブルが多いため、平成22年から最高裁が不正件数を調査しています。
成年後見人(親族含む)の不正件数等(最高裁)
年 件数 被害金額
H23 311件 33.4億円
H24 624件 48.1億円
H25 662件 44.9億円
H26 831件 56.7億円
H27 521件 29.7億円
 新聞報道によれば、平成27年の数字は全体数としては、はじめて減少に転じましたが、「専門家」による不正件数が37件(被害金額1.1億円)と過去最高だったそうです。成年後見人の「専門家」の占める割合は65%(H26)と増えていることもあり、由々しき問題です。一方で、それ以外の数字が「親族後見人」の着服であると考えると、これもこれですごい数字です。

子が預金等を使い込んだ場合はどうなる
 親族後見人と限らず、子が無断で親の預金を使い込むなど着服をすると、民事上の賠償責任、刑事上の業務横領罪(親族相盗例の適用なし)となるばかりでなく、その着服した金員は、親御さんがその子に対して有する「不当利得返還請求権」(本来の持ち主に返還を求める請求権)として相続税の課税対象となります。たとえ、相続の発生による「混同」により請求権が消滅することとなっても、税金の問題は残ってしまうということになります。

裁判所の法的解決も「不当利得返還請求」
 また、このような問題が相続人当事者間で解決できない場合には、遺産分割調停で争う方法と、訴訟(不当利得・不法行為)で争う方法が考えられますが、これについては、家裁では「不当利得返還請求訴訟」により解決すべきとの意向を示しており、「相手方が預金を解約したこと等を認め、今でも一定の額を預かっていることを認めて、そのお金を遺産として分割の対象とすることに同意した場合」には例外的に遺産分割でも取扱うことができるようですが、それに同意しない場合や預かり額に争いがある場合には、この限りではないようです。

H28.6.3

平成28年税制改正で3つの見直し 少し変わりました! 農地の納税猶予

贈与の納税猶予は「認定農業者」が要件に
 平成28年4月より「農地等の贈与税・相続税の納税猶予及び免除」の規定が一部改正されています。まず一つ目の改正は、「農地等の贈与税の納税猶予」の適用対象者の見直しです。改正前の適用対象者は、贈与者の推定相続人で①贈与日において18歳以上であること、②3年以上農業に従事していたこと、③贈与後速やかに農業経営を行うと認められることを農業委員会が証明した個人、とされていましたが、これに「認定農業者等」であることが要件に加わりました。「認定農業者」とは、農業経営基盤強化促進法に基づき、農業者が市町村に「農業経営改善計画書」を提出し、その計画書が認定された方々で、この「認定農業者」になると、交付金の受給や融資などの支援措置を受けることができます(27年6月には24万人が認定済)。今回、この「認定」が贈与税の納税猶予の要件となりました。
 漠然とした営農継続ではない、計画的な農業経営が求められることになりそうです。

農地集積バンクへの特定貸付けは要件緩和
 また、現在、わが国では、農地中間管理機構(農地集積バンク)を通じた農地利用の集約化が進められていますが、改正前には、農地等の贈与税の納税猶予を受けていた農地等を、贈与税の申告期限から10年(又は20年)を経過しないうちに農地集積バンクに貸付けた場合には、納税猶予が継続できる「特定貸付け」制度の適用が受けられず、納税猶予が打ち切られる形となっていました。これを改め、農地集積バンクへの特定貸付けに限って、この「受贈者の適用期間要件(10年又は20年)」を廃止することとなりました。

区分地上権設定による猶予継続の緩和
 最後に、相続税・贈与税の納税猶予の打切り事由になる農地の譲渡・貸付けから「区分地上権の設定」が除外されました。これは、近年、簡易な支柱を立てるタイプの太陽光パネルが発売され、農作物の生育に必要な日照を確保しながら、太陽光パネルの下で耕作することが可能となったことが契機となっています。農地法ではこの設置につき、区分地上権等を設定することが求められているため、納税猶予が打切りとなってしまうことがネックとなっていました。改正後は、このタイプの太陽光パネルを設置しても、引き続き営農していれば、納税猶予を継続できます。

H28.6.2

徴収代行手数料交付制度

ナチスドイツに範をとる
 イギリスが1799年にナポレオン戦争の戦費調達のために貴族階級を課税対象に創設した所得税の徴収とともに源泉徴収制度の起源は始まります。ただ、広く国民大衆を相手にする源泉徴収制度を制度として機能させたのはナチスドイツで、ナチスドイツは税制に対してはかなり先進的で、扶養控除や住宅促進税制など、第二次世界大戦後多くの先進諸国に影響を与えた制度を考案していました。

風雲急を告げる戦時下で始まる
 日本では、昭和15年、勤労所得の基礎控除を1,000円から720円に引き下げ、これにより課税対象者を飛躍的に増やし、同時に国の徴税事務の効率化を目的として勤労所得に対する源泉徴収制度を導人しました。
 なお、源泉徴収義務者は国から徴税事務を委託された代行人と位置付けられ、納税者一人当たり当初10銭の徴税代行手数料の交付を受けることができました。その後20銭になり、最終的には50銭になっています。交付金を得るには、翌年の1月末日までに所轄税務署長に対し請求書を提出するという手続きを経る必要がありました。現在の基礎控除で換算すると、毎年一人当たり263円の徴税代行手数料となり、従業員100人の場合、年間合計交付金26,300円ということになります。
 この交付金制度は昭和22年(1947年)に、申告納税制度と年末調整制度の導入に際して、廃止されました。

消費税も源泉徴収で年末調整
 消費税の納税義務者は消費者ではなく事業者ではあるのですが、負担者が消費者で、納税は事業者が行うという点では、源泉徴収制度に似ています。それに、事業者に国の徴税実務と徴税計算を押し付けて、税務署の下請け機関となることを、罰則をもって強制している点も同じです。

免税制度廃止、徴収代行控除の導入を
 本来は、消費税の導入に際し、源泉徴収制度導入時のように、押し付けた国の徴税実務と徴税計算に要する費用を補填すべきだったのではないかと思うところです。今からでも、税額控除という形で導入するのが、道理です。
 むしろ免税制度など廃止して、すべての事業者に申告義務を負わせても、徴税代行税額控除(月5万円、年60万円くらい)があれば、1,000万円以下の売上なら納税額は、多くの場合ゼロになります。

H28.6.1

所有者らしい振る舞いだから

名義人課税が原則という見解
 不動産、株式等の名義の変更があった場合において対価の授受が行われていないとき又は他の者の名義で新たに不動産、株式等を取得した場合においては、これらの行為は、原則として贈与として取り扱うものとする。
 これは、贈与に関する税務通達です。

名義借りゆえに贈与課税しない場合
 原則は名義人課税だけれど、必ずしも杓子定規にはしません、という次のような取扱通達もあります。
1. これらの財産の名義人となった者(その者が未成年者である場合には、その法定代理人を含む。)がその名義人となっている事実を知らなかったこと。
2. 名義人となった者がこれらの財産を使用収益していないこと。

名義借り財産は相続財産
 贈与は合意により成立する契約によって財産移動が起きるので、合意形成のない場合は、名義者への所有権移動が起きず、名義借り財産は、名義を借りた者の所有財産のままです。
 相続財産とされる名義預金(未成年者の子への親からの資金移動は親権者の行為なので通常は名義借り預金とはならない)などは、その代表例です。
 その他、名義土地や名義株式、名義車両船舶などというものも存在し得ることになります。

名義借り車両という裁決判断
 親が子供の名前で自動車を購入して、使用していたので、子供に対して課税庁が贈与課税をしたケースにおいて、名義の借用をさせただけで贈与の意思も事実もなく、課税される謂れはないと主張して係争になった事例があります。
 審判所は、①車両の有利購入条件を満たすための名義借り購入であり、②下取り車両も親のもので、本体代金も親が支払い、③子は購入時の車種選定に関与しておらず、④購入車両は親の自宅で保管され、名義貸しの子は日常的に本件車両を使用しておらず、⑤利用もしない者に対して車両を贈与するとは考え難く、⑥贈与の事実を疑わせる事情がある、として処分取消としました。
 また、係争中に親は、本件車両を売却して同売却代金を受領し、新たな車両を購入しており、これは正に所有者らしい振る舞いだ、と評しています。